経歴
1959年生まれ
三重大学で卒研としてフッ素系撥水撥油処理剤の改良合成を行いました。
卒業後コンタクトレンズの会社に就職。
8年間勤めた後、不思議な縁でフッ素化合物の世界に戻ることになりました。
以降業界歴通算33年を超えました。
更新:2021.9.20 公開:2019.1.15
雨具や靴、コーティング剤などを選ぶ時に、「撥水」や「防水」などの言葉をよく耳にすることがあるかと思います。
「撥水」と「防水」では具体的に何が違うのでしょうか。
また、似た言葉で「耐水」という言葉も耳にするかと思います。
これらの機能は、具体的にどのような部分が異なるのでしょうか。
また、そもそも水をはじく原理とはどのようなものなのでしょうか。
この記事では、撥水性と防水・耐水との違い、撥水性を求める上で知っておきたい水を弾く原理と評価基準について解説します。
目次
撥水とは、「水を弾く」状態を意味します。水を弾く現象は、分子間力(=表面張力)の違いによって現れ、液体よりも固体表面の分子間力(表面張力)が低くなると「弾きがよい」状態となります。
撥水加工はフッ素樹脂やシリコン樹脂などを使用して水を弾いて固体表面が濡れないために行う加工です。
撥水加工を施した表面に水滴を落とすと水が弾かれて、水分が表面を濡らしたり内部に侵入することを防げます。
撥水性のレベルは、表面に落とした水滴の形状によって測ることができます。どんな形状になったらよく水を弾くのか?という点については、後半で詳しく解説しております。
「撥水」と似た耐性として「防水」や「耐水」がありますが、「防水」は水を完全に遮断し内部へ通さないことを指しますが、耐水は「ある程度」水を通さないことを指します。
ただし、表面張力の作用は力学的なものですので、水の量が多すぎる場合や水圧が高い場合は弾き切れずに素材の内部に水が染み込むことがあります。
以上のことから撥水と防水では「水を球状にして弾く”撥水”」と「水を完全に遮断する”防水”」という違いあります。
耐水性を調べるための試験方法について解説します。
製品がどのくらいの水圧に耐えられるかを調べる試験です。
試験の規格はJIS L1092に則って行います。この規格には大きく分けて2つの試験方法があり、A法(低水圧法)とB法(高水圧法)です。
A法(低水圧法)は海外規格のAATCC 127およびISO811とほぼ同様の試験です。
JIS L 1092で試験するときの流れについて解説します。
A法(低水圧法)
B法(高水圧法)
測定値はJISに則って適切に四捨五入する必要があります。
試験結果について
試験によって計測された値は大きければ大きいほど耐水性が高いと評価することができます。
A法(低水圧法)とB法(高水圧法)では測定結果の値の単位が異なりますが、以下の式で換算することが可能です。
1kPa=101.972mm
このようにして耐水試験を行います。
撥水加工とは水の表面張力によって水を弾く加工のことをいいます。一般的には表面にシリコンやフッ素の粒子を付着させることによって加工されます。
撥水加工を施すことで水分は弾かれ、内部への侵入を防ぐことができるようになります。
細かい粒子が水を弾くだけなので通気性などが保たれるため、内部が蒸れることはありません。
撥水加工のメリットとデメリットについて解説します。
撥水加工を施すことで内部へ水分が浸透することを防ぐことができるので、耐久性が向上するメリットがあります。
撥水加工は細かな粒子によって水を弾く機能を持つ加工であり、気体は貫通します。そのため、内部が蒸れないメリットがあります。
例えば衣料品などに撥水加工を施すと、湿度が高い時でも快適に着用できます。
撥水加工の効果は永続的に続くわけではなく、紫外線の影響や水に長期間接すると効果が薄れてくるデメリットがあります。
また、表面張力が低い液体(石鹸水など)が付着してしまうと、撥水効果が低下してしまうことがあります。
前項で記載した通り「防水」は、外部からの「水を通さない」ことを指します。
一般的に使用する際は「防水」と「耐水」は「水を防ぐ」という意味や用途に、大きな違いは無いでしょう。
「防水」は完全に水を通さないことを指しますが、耐水は「ある程度」水を通さないことを指します。
具体的にはIP規格において、防水・耐水の強さが分類されております。
次項ではその規格について解説致します。
電気機器については、「防水」と「耐水」のそれぞれの使い分けについての定義が「IP規格」に定められております。
IP規格とは「IEC(国際電気標準会議)」で規格化された、電気機器の外装による防水・防塵に関する保護規格のことで、防水性能に対する指標は「IPX▲」で表されます。
下記の表は、「IPX▲」の保護等級を評価している基準です。表左欄が「IPX▲」の▲に当たる数字となっており、数字が大きくなればなるほど、保護力が高くなります。
IPX▲とだけ表示がある場合は、「防水性能のみを表す」という意味となります。
0級 | 特に保護がされていない |
1級 | 鉛直から落ちてくる水滴による有害な影響がない(防滴I形) |
2級 | 鉛直から15度の範囲で落ちてくる水滴による有害な影響がない(防滴II形) |
3級 | 鉛直から60度の範囲で落ちてくる水滴による有害な影響がない(防雨形) |
4級 | あらゆる方向からの飛まつによる有害な影響がない(防まつ形) |
5級 | あらゆる方向からの噴流水による有害な影響がない(防噴流形) |
6級 | あらゆる方向からの強い噴流水による有害な影響がない(耐水形) |
7級 | 一時的に一定水圧の条件に水没しても内部に浸水することがない(防浸形) |
8級 | 継続的に水没しても内部に浸水することがない(水中形) |
(出典引用:JQA・一般財団法人 日本品質保証機構「IP 防水試験・防塵試験 」
https://www.jqa.jp/service_list/safety/file/pamph_ip201705.pdf)
各等級の説明末尾カッコ内に記載された記載された形名は旧規定に記載されていたもので、現在は削除されていますが、理解しやすいのであえて記載してみました。
上記の表を元に、一般的に「耐水」と謳われている製品はIPX6以上、「完全防水」はIPX8という表示がなされています。
このことから、防水・耐水は同じ評価基準で判断されている「水を通さない機能」ではありますが、「水を通さないレベル」によって使い分けられているということになります。
ここまでの項を要約しますと「撥水」、「防水」「耐水」の違いは、「撥水」は物体表面の持つ機能で、「防水」や「耐水」は物体全体の機能であることがお分かりいただけましたでしょうか?
撥水性の試験方法について解説します。
撥水性試験は製品が水を弾くことによって防水性能を氷解する試験です。
試験の規格はJIS L1092撥水度試験(スプレー試験)に則って行います。
JIS L 1092はISO4920と同様の試験方法です。
湿潤状態は5つに分類されます。この節では各等級についての説明を行います。
※実際には湿潤状態の見本として参考画像があります。
5級に近づくほど撥水度が高いと評価できます。
防水加工とは水を通さないようにするための加工のことをいいます。
ゴムやビニールなどのそもそも水を通さない素材を用いたり、通常は水を通すけれど水を通さない物質でコーティングしたり練り込むなどして水を侵入させないための機能を付加する加工が防水加工です。
水の浸透を完全に防ぐことが可能であり、内部を保護できる機能を有します。また、素材自体が水を防ぐ機構を持っているため、経年劣化しても防水効果が完全に失われるケースは少ないです。
防水加工のメリットとデメリットについて解説します。
防水加工を施すことで対象物の耐久性が向上するメリットがあります。
特に、木材などの建築資材であったり、布製品など、水分が悪影響を及ぼす材料に対して効果を発揮します。
防水加工によって素材がコーティングされる状態となり、汚れが内部に浸透しなくなるため汚れにくいメリットがあります。
水分が浸透しないためカビや細菌の繁殖も抑えられます。
防水加工は外部からの水分を通さないだけでなく、内部の水分も通さなくなります。そのため、水蒸気の抜け道がなくなり湿気がこもりやすくなるデメリットがあります。
撥水性が防水性・耐水性とは違うことがわかったところで、続いては「なぜ物質に撥水性が生まれるのか」という原理について考えてみましょう。
表面張力(表面自由エネルギー)は、分子同士が引き合う力です。水分子を例にして考えてみますと、水分子では分子を構成する水素原子と酸素原子が水素結合に強く引き合うため、分子同士が強く結束しています。強力な分子間力が均一に内側に作用するため、水は丸い球体になりやすくなります。
固体表面は表面張力(=分子間力)が大きいほど液体の分子と引き合う力が大きくなります。
固体表面に液体を滴下したとき、分子間力が液体分子と固体表面との間に働き、固体表面が液体を吸着しようとします。液体の内部に働く分子間力がこの個体の分子間力より弱い場合は、液体内部に働く分子間力が負けて固体表面上に吸着されて濡れ拡がります。これが固体の表面に液体が濡れてしまう現象のメカニズムです。
逆に固体の表面自由エネルギーが小さいほど、固体の液体を引っ張る力が小さく、液体が固体表面に付着した時に液体の表面張力が優るため、液体は内側に引っ張られて固体表面上で球状に近くなります。
この時、固体の表面は濡れにくく、液体をはじく現象が見られます。
具体的な例を挙げますと、水の場合は分子間力が高い(72.75mN/m)ため固体表面でははじかれやすく、エチルアルコール(22.55mN/m)やシリコーンオイル(19-22mN/m)では、固体表面を濡らしやすいということになります。
固体表面にも様々な表面張力があります。
たとえばポリエチレンでは31mN/m
という表面張力ですので、水ははじくことができますが、エチルアルコールやシリコーンオイルは濡れてしまうことになります。
撥水撥油性が得られるフッ素コーティングでは12-20mN/m (タイプによって異なります)と、固体表面では最も小さい表面張力ですので、ほぼすべての液体が濡れ拡がることがなくはじかれることになります。
ここからは濡れ性・撥水性を客観的な数値で判断していく評価方法を解説していきます。「撥水性が高い」と言われる状態は、どこで判断されているのでしょうか。
撥水性を評価する上で注目すべきポイントが、水などの液体における「滑落角」と「接触角」です。
液滴が滑り落ちるときの後ろ側の接触角を後退接触角と呼び、この角度が高いほど「液滴の切れが良い」と評価されます。
撥水性を判断する上で参考にされる「滑落角」や「後退接触角」ですが、これは重力と液滴が表面に吸着している力の大きさとの比較になりますので、データを相対的比較する場合は、測定に使用する液滴の種類と量が一定である必要があります。
最近では、動的接触角測定は静止状態の接触角よりも実質的な撥水性や防汚性(汚れの付きにくさ)を的確に表していると言え、撥水性や防汚性を評価する上で重要な指標となっております。
高度に撥水する状態を表す際に「超撥水」という表現が使われることがあります。
「超撥水」とは、一般的に液体と固体表面との接触角が150°を超えた状態を指します。
超撥水の構造としてはロータス効果が有名で、多くの分野で実用化され始めています。
撥水性の原理は、分子間力(=表面張力=表面自由エネルギー)が大きく関係しています。
撥水性を高めるためには、固体表面の表面自由エネルギーを小さくすることで、固体表面は濡れにくく、液体が付着しづらい「撥水」状態となります。
自社製品に撥水加工を行うことを検討している企業担当者の方は、予備知識として撥水の仕組みを知り、撥水性について正しく判断できるようにしていただくと有用かと思います。
撥水加工をご検討の方は、フロロテクノロジー「フロロサーフ」を御覧ください
経歴
1959年生まれ
三重大学で卒研としてフッ素系撥水撥油処理剤の改良合成を行いました。
卒業後コンタクトレンズの会社に就職。
8年間勤めた後、不思議な縁でフッ素化合物の世界に戻ることになりました。
以降業界歴通算33年を超えました。
フッ素樹脂は、工業で広く扱われている素材です。耐薬品性・耐熱耐寒性・表面平滑性・耐摩耗性など優れた性質があるため、さまざまな分野で活用されています。
撥水撥油加工は水や油から製品を保護する機能により、重要な役割を果たします。
撥水性を考える上で、「防水」「耐水」との違いに疑問を持つ方も多いでしょう。
電子回路基板やプリント基板の品質を保つうえでは防湿コーティングは重要な工程の一つです。防湿コーティング剤には様々な商品があり、塗布方法も多種多様なため、どの製品を選べばよいのか悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
様々な電気機器に使用されるプリント配線板や実装部品では、以下のような物質の存在や現象が回路の短絡や断線、電流漏洩などの不具合を引き起こすことがあり、機器の動作不良や故障の原因となります。
多様な性能を持つフッ素樹脂加工やフッ素コーティングは、自動車・住宅の外壁・電子部品の基板保護など、広く使用されています。そのため、導入を検討している企業様も多いでしょう。
フッ素樹脂コーティングは、多様な特性を持っていることが特徴です。その特性によりいろいろな問題解決ができる分野も広く、様々な製品機能の向上が期待できます。
多様な性能を持つフッ素樹脂加工やフッ素コーティングは、自動車・住宅の外壁・電子部品の基板保護など、広く使用されています。