フッ素樹脂加工とフッ素コーティングとは|メリット・デメリット、使用時の欠点・対策を紹介
更新:2021.10.11 公開:2019.1.15
多様な性能を持つフッ素樹脂加工やフッ素コーティングは、自動車・住宅の外壁・電子部品の基板保護など、広く使用されています。そのため、導入を検討している企業様も多いでしょう。
しかし、使用されるフッ素樹脂にはタイプによって、それぞれの長所も短所が存在します。この点をふまえつつ、母材や用途にあった仕様のフッ素樹脂加工やフッ素コーティングを採用することで、効果をより有効に活用することができます。
当記事では、フッ素樹脂加工やフッ素コーティングのメリットや活用シーンと共に、特徴と弱点、工法を紹介していきます。
1.フッ素樹脂―2つの選択肢
フッ素樹脂を表面に被覆するには、大きく分けて2つの方法があり、目的や使用状況に合わせて、適切な方を選択する必要があります。
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①専門工場で施工する「フッ素樹脂加工」
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②常温でコーティング可能な「フッ素コーティング剤」
これらの2つのフッ素コートには、得られる効果・使い方も異なるため、まずは共通点と相違点についてみてみましょう。
〇フッ素樹脂加工・常温フッ素コーティングの共通点
フッ素樹脂加工も常温フッ素コーティング剤は、それぞれ皮膜となるフッ素樹脂の化学的構造は多少異なりますが、撥水撥油性・非粘着性・防汚性・潤滑性・耐酸性、電気絶縁性などは、どちらも共通して持ち合わせています。それでは、この2種類のフッ素樹脂の相違点(特徴と工法)について以下にまとめました。
1-1.フッ素樹脂とは?特性をわかりやすく解説
フッ素樹脂の主な特性 |
耐熱性 |
高い結合エネルギーの原子を持つため、高い耐熱性があります。 約-196~400度の間の使用に耐えることが可能です。 |
低温時の耐衝撃性 |
低温の環境でも優れた耐衝撃性を発揮します。 -196度でも5%の伸びを示すことがフッ素樹脂の特徴です。 |
耐燃焼性 |
フッ素樹脂は酸素と結合しにくく、電子の分解力に耐えられるため、高温になっても燃えにくい性質を持っています。 |
電気絶縁性 |
15,000~20,000ボルトの高電圧でも絶縁抵抗を行うため、電気・電子部門に役立ちます。 |
低摩擦性 |
個体の中でも摩擦係数が非常に小さい素材として知られています。 |
非粘着性 |
非粘着性が高く、樹脂表面に接した物質と接着することがほとんどありません。 |
耐薬品性 |
一般的な化学薬品からの影響を受けることなく使用できます。 |
無毒性 |
人体に無毒なため、食品に対して使用が可能です。 |
耐紫外線性 |
紫外線による劣化が起こりづらいため、屋外でも長期間にわたって使用できます。 |
2.フッ素樹脂加工の特徴と工法
フッ素樹脂加工は、母材にPTFEなどのフッ素樹脂を粉体塗布し、加熱によって溶融させることで皮膜を形成する方法です。
対紫外線性・耐熱性(300~450℃)といった特性も持っているため、太陽光にさらされる製品や耐熱性が求められる素材への塗布が向いています。
一方で、塗布工程数が多く手間も技術も必要となるため、専門工場でなければ塗布でません。
また、プラスチックなど耐熱性のない素材には施工できないため、加工できる素材の制限が大きくなります。
2-1.フッ素樹脂の種類
フッ素樹脂の種類 |
PTFE
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ポリテトラフルオロエチレン(Poly tetra fluoro ethylene) |
PFA |
パーフルオロアルコキシアルカン(Perfluoro alkoxy alkane) |
FEP |
パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(Perfuluoro ethylene propylene copolymer) |
ETFE |
エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(Ethylene-tetrafluoroethylene) |
PCTFE |
ポリクロロトフリフルオロエチレン(Polychlorotrifluoroethylene) |
ECTFE |
クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(Chlorotrifluoroethylene ethylene copolymer) |
PVDF |
ポリビニリデンフルオライド(Polyvinylidene fluoride) |
PVF |
ポリビニリデンフルオライド(Poly Vinylidene Fluoride) |
2-2.フッ素樹脂加工の主な使用用途
フッ素樹脂加工はフッ素樹脂が持つ特性の中でも、耐熱性に優れているため、高温な状況下で使用されるフライパンや金型・薬品が通るパイプ内面に塗布されています。
また、自動車業界でもよく使用されており、ペアリング、自動変速機のシール、ブレーキパッドなどの耐熱性、低摩擦性を生かせる部品などでフッ素樹脂加工を使用ケースが多くみられます。
他には、絶縁性にも優れているため、情報通信機器や冷蔵庫、洗濯機などの家電製品、自動車産業や宇宙業界などの非常に幅広い業界でも使用されており、汎用性の高さがうかがえます。
他にも屋外にも強い特性があり、太陽光の紫外線での劣化が少ないため、家屋の屋根やキャンプ用品などでも重宝されます。
これら以外にも耐摩擦性や非粘着性、耐薬品性、非粘着性など様々な特性を持つため、日常的な用品から産業的な部品まで様々な業界でフッ素樹脂加工は活躍しています。
2-3.フッ素樹脂加工の塗布工程
①母材預かり・検査
フッ素樹脂加工対象物を預かり、数量、外観(キズや汚れの状態)、塗装条件(材質など)を確認します。同時に、依頼の通りに塗布ができるか否か判断します。
②脱脂
脱脂とは、母材の表面についている油脂などを取り除くことです。
溶剤洗浄(油を溶かす性質を持った洗剤を用いて洗浄すること)や空焼きが行われます。
③下地処理
表面密着性を上げ接着しやすくするために、下地処理としてブラスト処理や化成処理を行っていきます。
ブラスト処理とは、小さな研磨剤を母材の表面に打ち付け、表面に微細な凹凸を形成いたします。化成処理とは、母材に化学的に表面加工を施して下地となる被膜を作ります。
また、場合によっては、これらの作業の後、溶かした金属やセラミックの材料を母材の表面に噴射することで耐久性も上げることもあります。
④コート(塗布)
フッ素樹脂を分散させた塗料を塗布します。母材や塗料の種類、完成品に求める性能によって、コーティングの方法や回数が異なります。何層にも重ねて塗る場合には、複数回にわたってコーティングと乾燥を繰り返し行います。
⑤乾燥
水性・溶剤性塗料の場合は、焼き付けを行う前に乾燥させます。
⑥焼き付け
焼成炉を使用して高温にて焼き付けを行い、母材にフッ素樹脂を定着させます。
⑦検査・再塗装
当初の依頼の通りに塗布が完成しているかどうかの確認を行います。厚みが不足の場合は、再度コーティングします。目で見えない箇所や配管の内側まで丁寧な検査が必要となります。
3.常温フッ素コーティング剤の特徴と工法
常温フッ素コーティング剤は低粘度透明な溶液で供給され、通常の塗料と同じように刷毛やスプレーで簡単に塗布できます。塗布後は常温で乾燥させるだけで、薄膜で透明なフッ素被膜が形成できるコーティング剤です。
加熱の必要がないので耐熱性がない素材でもフッ素コーティングすることができます。繊細な電子機器の基板や繊維・皮革など、前記のフッ素樹脂加工よりも多くの素材に塗布でき、使用用途は多岐に渡ります。工程が容易なのでフッ素樹脂加工専門工場への依頼が不要で、製造現場での塗布が可能です。
一方で、使用できる耐熱温度の上限が100~220℃(品種によって異なります)となり、フライパンなどの高熱下の用途には不向きです。また、屋外で使う製品に塗布した場合は、紫外線の影響により1年程度での再塗装が必要となります。
3-1.常温型フッ素コーティング剤の有効な使用シーン
常温型フッ素コーティング剤を使用するメリットとして、以下のようなフッ素樹脂の持つ性質を簡単に得られることが挙げられます。
3-2.常温フッ素コーティング剤塗布の主な使用用途
前項で挙げられた特性は具体的には以下のようなシーンで利用されます。
なお、用途によって要求される性能のポイントが異なりますので、用途に合わせた商品の選択が重要です。
3-3.常温フッ素コーティングの弱点
常温フッ素コーティング剤は、下記の2つの弱点があります。
〇耐熱性
先述の通り多くの常温フッ素コーティング剤には、常温でコーティングができるという特性と裏腹に、耐熱性については、タイプによって異なりますが、使用上限は100-220℃となります。フライパンやアイロンのような高熱の用途には使用することは難しいです。
○対紫外線性
常温型フッ素コーティング剤は、紫外線で劣化する傾向があります。日常的に太陽光に曝露される用途は1年程度で性能が劣化するケースがあります。毎年塗り直しができる用途であれば問題はありませんが、塗り直しができない場合で屋外の用途にはあまり向いておりません。
3-4.常温フッ素コーティング剤の塗布工程
常温フッ素コーティング剤の塗布方法は、一般的な塗料と同じ方法で塗布することができます。 基本的な塗布工程の流れと、主な塗布方法をいくつかご紹介いたします。
基本的な工程の流れ
①素材前処理剤
対象物に水分や油分、汚れ、ほこりなどが付いていると、皮膜の密着性能が損なわれるため、対象物の表面を洗浄などで清浄にしてください。
ペーパー掛けやブラストなどの前処理も有効です
②塗布
代表的な塗布方法は以下のような方法ですが、これ以外にも一般的な塗装手法がご利用いただけます。
1.手塗り(はけ・筆)
刷毛・筆・スポンジローラーで、コーティング剤を塗布します。簡単に処理できる反面、ムラや膜厚のばらつきができやすく、塗布者によっても品質に差が出ます。少量多種の生産工程に向いています。
2.スプレーガン
市販の塗装用スプレーガンで塗ります。比較的簡単で美しい塗膜が可能ですが、飛散量が多くコーティング液が無駄になりがちです。塗布者によっても品質に差が出ます。
3.スプレーコーター・ディスペンサーマシン(XYロボット付き)
スプレーコーターやディスペンサーマシンによる塗布。 いずれも大量生産向けで、正確に膜厚のコントロールが可能です。広い面積を塗る場合はスプレーコーター、部分的に塗る場合はディスペンサーマシンが向いています。スプレーコーターの場合は飛散によるコーティング剤のロスを最小にする条件設定が必要です。
4.ディッピング
コーティング剤に対象物を浸漬して塗布します。比較的均一な皮膜厚が得られ、複雑な形にも対応 できます。この方法では対象物すべての部分を完全にコーティングできますが、不要な箇所へも塗布されます。浸漬後の引き上げ速度とコーティング剤の濃度で膜厚をコントロールします。
生産工程で使用する場合は、時間経過とともに溶剤が蒸発することにより、樹脂分の濃度が変化することがあり、随時濃度管理を行う必要があります。少量生産の場合は手動で行うことができますが、大量生産の場合はディッピングマシーンで行うことができます。
5.スピンコーティング
対象物を回転させた状態で、上からコーティング剤を滴下します。遠心力でコーティング液が濡れ広がることにより塗布できます。対象物は平面に限られ、専用のコーティングマシンが必要ですが、薄膜で均一なコーティングができます。半導体ウエハーなどでよく使用されます。
③乾燥
塗布後は常温でおいておくだけで乾燥が可能です。膜厚と必要な乾燥時間は比例します。20ミクロンを超える膜厚の場合は、加熱しますと気泡やクラックが発生する可能性があるため、室温で養生してください。また、重ね塗りする場合は一度塗布したら十分な乾燥時間が必要です。
4.フロロコートとフライパンに使われるフッ素加工の違い
フッ素加工といえば、我々の生活に身近なのはフライパンなどの調理器具ではないでしょうか。
フロロサーフのような常温フッ素コーティング剤とは、どのような違いがあるのか見ていきましょう。
4-1.フライパンのフッ素加工
フライパンに使われているフッ素加工は、アルミやステンレスなどの地金にフッ素樹脂を塗り高温で焼き付けることで定着させます。
フッ素樹脂は単体では金属に直接付着しないため、下地として糊を使用します。
フッ素樹脂として、PTEE(四フッ化エチレン樹脂)やPFA(パーフルオロアルコキシアルカン)などがあり、強度や耐久性をアップさせるために下記のように色々な素材と組み合わせたものも人気があります。
・マーブルコート
マーブルコートはフッ素樹脂に人工大理石や鉱物を混ぜて耐久性をアップさせた加工方法のことを差します。
通常、フライパンは黒い表面のものが多いですが、マーブルコートのフライパンは表面に白い大理石の粒子が散りばめられているのが特徴です。
・ダイヤモンドコート
ナノダイヤモンドよ呼ばれる人口ダイヤモンドの粒子をフッ素樹脂に混ぜてフライパンの表面をコーティングします。
硬い素材とくっつきにくいフッ素樹脂を混ぜるため、コーティングが長く持つとされます。
・チタンコート
フッ素樹脂にチタンを混ぜてコーティングしたものです。
チタンは鉄の2倍の強度があるので、數あるフライパンの表面加工の中でも特に耐久性が高いとされます。
4-2.テフロンとフッ素加工は違いがある?
フライパンの表面加工で浸透しているのが、「テフロン」という名称です。
テフロン加工と聞くとテフロンという素材があるかのように思われますが、実はテフロン加工もフッ素樹脂のことを指しています。
ではなぜ名前が違うのでしょうか?実はテフロンとはデュポン社の商標登録名のことなのです。
1938年にプランケット博士が冷媒の研究をしていた所、偶然生まれたのがフッ素と炭素が結びつき、後にテフロンと呼ばれる樹脂ポリマーでした。
このフッ素樹脂は非粘着性が高いだけでなく、熱に強く、燃えにくく、薬品などにも強いことが分かり、1950年代後半にはテフロン加工を施したフライパンが発売され、現在に至るまで世界各地で広く使われています。
4-3.テフロン(フッ素樹脂)加工のフライパンはなぜ空焚きNGなのか
よく、テフロンをはじめとしたフッ素樹脂加工を施したフライパンは「空焚きしてはいけない」「揚げ物をしてはいけない」などと言われます。
それはフッ素樹脂の使用上限温度を超えると、熱分解によりコーティングが剥がれてしまうためです。
フライパンの表面加工によく使われるフッ素樹脂のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPFA(パーフルオロアルコキシアルカン)の上限温度は260℃ほど。
火加減にもよりますが空焚きをすると数分でこの上限温度を超えると、コーティングがはがれやすい状態になってしまいます。
さらに、熱分解が始まる350℃まで達すると有害なガスや微粒子物質が発生するとされるため、フッ素コーティングのフライパンでは空焚きは厳禁とされています。
万が一、高温でフッ素樹脂加工のフライパンを空焚きしてしまった場合は、すぐに窓を開けて換気をしましょう。
調理前の余熱や残った水分を蒸発させるために火にかける行為も避けた方が安心です。油を引いたり食材を入れたりして、温度が急激に上がる状態を避けてください。
食材を調理している時の温度は、150~190℃ほどなので普通に使用している限りは安全面での問題はありません。
4-4.フロロサーフのフッ素加工
フロロサーフは特殊なフッ素樹脂を不燃性のフッ素系溶剤や有機溶剤を使用して溶液化した製品です。
刷毛やワイプを使って塗ったり、コートしたい対象物をフロロサーフに浸漬して乾燥させるだけでフッ素系樹脂の被膜が形成されるため、フライパン等のコーティングのように接着剤を使ったり高温で焼き付ける工程は不要です。
そのため、手軽に簡単に塗布させることが可能です。
フロロサーフの詳細はこちら
均一にコートするために、フロロサーフを塗る前にエタノールや洗浄剤で表面を脱脂するのをお忘れなく。
詳しい使用方法はこちらの動画でもご確認いただけます。
フロロサーフは高温には弱いため、調理器具など食品に触れるものへの加工には適しません。
しかし、部品や素材が加工作業で熱による影響を受けませんし、フッ素樹脂の被膜もごく薄く仕上がるので、基盤や配線版などの精密機器や木材や絹製品などデリケートな素材の防湿・撥油加工などに最適です。
エレベーターの操作盤やディスプレイの指紋低減から、LEDを硫化ガスから保護するための耐酸性加工など様々な分野でフロロサーフが導入されています。
まとめ
フッ素コーティング剤やフッ素樹脂加工は、その特異性で様々な用途に利用されております。
それぞれ特性が異なる面もあり、得手不得手もありますので、ご使用になる用途、経済面もあわせて十分な検討で適切な処理方法をご選択いただければ幸いです。
常温環境で簡単に塗布できるフッ素コーティング剤は、フロロテクノロジー「フロロサーフ」を御覧ください
この記事を書いた人
代表取締役 伊藤隆彦
経歴
1959年生まれ
三重大学で卒研としてフッ素系撥水撥油処理剤の改良合成を行いました。
卒業後コンタクトレンズの会社に就職。
8年間勤めた後、不思議な縁でフッ素化合物の世界に戻ることになりました。
以降業界歴通算33年を超えました。